墨出しマニュアル

現場で使える墨出しマニュアル

墨出しマニュアル 親墨出し編

親墨出しとは?

墨出し屋の最も重要な仕事です。

番神経を使う仕事でもあります。

そのため、親墨出しには伝統的なやり方が存在しています。

現在もそれはほどんど変わっていません。伝統的なやり方で親墨出しをするのが、一番ベストです。手順通りやれば間違いありません。

 

親墨出しとは?  スラブ上に基準となる返り墨を打つことです。

返り墨とはなにか?   それにはまず通り芯という言葉を覚えてください。

通り芯とは?

何もない敷地やスラブ上で壁や柱を作っていく上で、基準がないと何も作れません。

そこで仮想線を引きます。仮想ですので、設計者が自由に決めています。

柱があるときは柱の芯、壁があるときは壁の芯、に仮想線を引くことが一般的です。

その仮想線=通り芯と呼びます。

 

返り墨とは?

 

柱や壁の真ん中にある通り芯は、やがてまさにその場所に建造物が建ちます。墨を通り芯で出せたとします。柱や壁が出来ると、もう墨は見えなくなってしまうのです。それでは意味がない。だから例えば通り芯から1メートル離れた所に墨を打つのです。そうすれば、柱が建っても、壁ができても墨を使う事ができるのです。

 

なぜ墨出し業者が親墨を出すのか?

ほんの20年から30年前まで親墨は、現場監督と型枠大工で協力して出していました。

しかし、監督の業務の激増と、墨出し専門業者の増加で親墨出しは墨出し屋の仕事となりました。特に関東ではそれが顕著です。もしかしたら関西方面では、今でも墨出し屋を使っていない現場もあるかもしれませんね。

 あと一つ考えられる原因として、墨の精度を求められる時代になってきたということです。

 今私達、中村測量ではトータルステーションと、トランシット両方使っています。

 なぜ二つ使うのか?

トランシットは90°だけを出すには、最適な機械です。トータルステーションと比べてかなり軽いし、据え付けも簡単です。

 トランシットだけでも親墨は出せます。ではなぜトータルステーションを使うか。それほ距離を正確に測りたいからです。トータルステーションを使う前までは、スチールテープ、いわゆる巻尺を使っていました。この巻尺、結構厄介な代物なんです。テープをだだ置くだけでは駄目なんです。力を入れて引っ張って使うものなんです。

その力の入れ具合が、いままでは職人の勘に頼ってきていたのです。「だいたいこれくらいの力で引っ張っる」こんな感じ…。

人によって違うのです。これは良くない。

そこで私達、中村測量は距離の測定はトータルステーションで測る事にしたのです。これなら誰がやっても同じ距離になります。

トータルステーションまで使うとなると、もう墨出し屋にしか親墨は出せません。建物の基準を自分達が作っている、他の業種の職人がそれを信じて各々の仕事をこなしている、そういう自覚を持って親墨出しにあたってください。

ここが墨出し屋の腕の見せ所です。

 

 

では、具体的な作業手順に入っていきます。

まずは、流れを見ていきます。その後各作業の注意点、ポイントを解説していきます

その後チェックポイントを提示しますので、

  プリントして必ず現場でチェックして下さい。

 

①墨出し穴に板を打ち付ける。固定を確認したら下げ振りを下の階のスラブまで下げる。

 

②下の人は下げ振りの揺れを止め、下げ振り先端にポイントを付ける。

 

③下の人は今付けたポイントと返り墨との距離を測り、上の人に報告する。その際、上の人は必ず報告を受けた数値を復唱すること!

 

④上の階(これから親墨出しをする階)に先程の数値を元に下の階の墨を復元する。まずは長手を出す。数値を間違いないように復元する。

 

⑤ 墨を打ったら、差し金を使い墨上に交点を作成する。交点同士の距離の確認をする。

 

⑥ 確認が出来たら、交点に据えたまま90度振る。もう一方の墨出し穴で確認。

 

⑦ もう一方の端部でも90度振る。

 

⑧ もう一方の長手を作る。

 

⑨ 距離の割り付けをする。スチールテープでの距離の割り付けが好ましい。

 

⑩ 割り付けたポイントにトランシットを据え、90度を出す。それを繰り返す。

 

⑪ スケールで壁芯や、階段付近、手すり上など細かい親墨を出していく。

 

⑫ 能書きを書いて、もれや間違いがないかチェックする。

 

 

現場にもよりますが2時間から4時間で終了します。

早出して行うこともあります。(ほとんどがそうかもしれません)

 

絶対的な考え方

 

・基本的に親墨出しは下の階の墨を上の階にコピーすると考える。下の階はこの基準を使って、でも上の階は別の基準を使って・・・というのは✖。下の階のものをそのまま上の階に写す。

 

・必ず誤差がでます。でも5ミリ以上あったら何かを間違えている可能性が高い。

5ミリ以上でたら、もう一度墨出し穴からやり直してください。

 

・誤差修正は広げる方向で考える。広げるとは距離を伸ばすということ。

コンクリートは縮まる事が多いので。しかし、あまりやり過ぎない事。修正がきかなくなってしまいます。

 

 ・トランシットは必ず長手をにらんでから振る事。できるだけ距離が長い方から90度を振る事。

 

個別に気を付ける事

 

①墨出し穴に板を打ち付ける。固定を確認したら下げ振りを下の階のスラブまで下げる。

・通り芯と平行、直角に板を取り付ける事。板はあまり分厚いものは適さない。(誤差

が生じてしまう)また、ベニヤ板でもペラペラなものはダメ。釘を打ち込んだ後、ぐらつかないか確認してください。

・下げ振りの糸が途中で何かにぶつかっていないか、上の人も下の人も確認すること!

 

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墨出し穴

②下の人は下げ振りの揺れを止め、下げ振り先端にポイントを付ける。

・基本は下の人が職長か、一番できる人が担当すること。サポート、水、ノロなどで大変作業しづらい環境で、どこに墨があるのかも慣れていないと見つけられない。親墨出しはスピードも大切なので、ここは職長がやってください。

・しっかりと下げ振りの揺れが止まったら、下げ振りの正面から真下にポイントを付ける事。斜めから適当に付けると平気で2.3ミリ誤差がでます。ここをきっちり誤差なく作業することで後が楽になります。ポイントは身体を下げ振りの正面に持っていくこと!

 

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下げ振り

③下の人は今付けたポイントと返り墨との距離を測り、上の人に報告する。

その際、上の人は必ず報告を受けた数値を復唱すること!

・ここがミスが多いところです。伝言ミスですね。しっかりと復唱してください。

上の人は書き間違いがないようにしっかりと確認!

 

④上の階(これから親墨出しをする階)に先程の数値を元に下の階の墨を復元する。

まずは長手を出す。数値を間違いないように復元する。

・出したポイントを型枠から当たってみて確認してください。大きな間違いは防げます。ここを面倒くさがらずにやる事。ミスを発見できることがあります。その後の安心もうまれます。

・墨はよくはじく事。糸に余分にくっついた墨を捨てる事で、きれいな細い墨が打てます。はじかないと、べちゃっとした、ぶっとい墨になってしまいます。

・職長はこの一本がすべてを決めることを理解して、何度も確認してください。

 

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確認

⑤ 墨を打ったら、差し金を使い墨上に交点を作成する。交点同士の距離の確認をする。

・長手の墨を打ったら、両端で直角方向(かねて方向)の墨を出す準備をします。

墨出し穴から差し金を使って交点を作っていきます。その時、トータルステーションで距離を測ってください。理想的な距離は1,2ミリほど長い距離。たとえば10メートルの距離なら10m2㎜。これぐらいがベスト距離。小さい現場ならピッタリがいいでしょう。 先程もいいましたが、5㎜以上あった場合は危険信号!もう一度やり直してください! 3㎜以上5㎜未満の場合、調整が必要。まずはそのままで90度振ってみてください。そこで墨出し穴からあげたポイントで確認して考えます。どこで誤差が生じたのか。どこを修正すれば現場に支障がでないか。 基本は90度を守る方向で考えて、距離の調整で誤差を修正してみてください。

 

⑥ 確認が出来たら、交点に据えたまま90度振る。もう一方の墨出し穴で確認。

・作った交点にトータルステーションを据えて、長手をにらんで、90度振る。

この際に、墨出し穴から上げたポイントで確認します。OKならそのまま墨打ち作業に入ってください。墨を打った後、もう一方の長手を出すために距離を測るのを忘れずにおこなってください。誤差があった場合は上記の⑤番を参考に調整すること。

・この時、手すりなど、ついでに出せるところは出しておく。

 

⑦ もう一方の端部でも90度振る。

・トータルステーションを移動して90度振る。墨出し穴を四隅上げていたらここでも確認できますが、3点の場合確認ができないので、画面表示の90度をしっかりと、指さし確認してください。以前89度で振った人がいました。人間は間違えるので、過信せず毎回確認してください。

・もう一方の長手を作るために距離を測っておくことを忘れずに。

 

⑧ もう一方の長手を作る。これで四角が完成します。

・両端で90度振った後に距離を測っておきましたので、そこに据えて90度振る。

この際、短手から長手を見るのでどうしてもピタッとはきません。少しずれるのが普通です。そこは気にしないでポイントに合わせてOKです。大きく間違っていなければ大丈夫です。

・長い距離の墨出しの場合はかならず、最初のポイントを何回か確認しながら、墨を出していってください。温度や振動などで意外と器械は動きます。

 

⑨ 距離の割り付けをする。スチールテープでの距離の割り付けが好ましい。

ここで短手(X方向)の墨を出す準備にかかります。四方を囲めば親墨出しも半分以上終了しています。残りも頑張りましょう。

・スチールテープで割り付けをします。ここはトータルステーションではなく、スチールテープ一択です。トータルステーションだとぴったりと同じ数値を復元するのが難しく、時間がかかるためです。スチールテープの方が、同じ距離を再現するには適しています。よくわからないと思いますが、割り付けはスチールテープと覚えてください。

これは何度も検証した結果なので、信じてスチールテープでやってください。

・スチールテープは同じ力で引っ張る。ここは感覚ですが、トータルステーションでも測っているので大きな誤差は生じないはずです。

 

⑩ 割り付けたポイントにトランシットを据え、90度を出す。それを繰り返す。

・ここでトータルステーションからトランシットにチェンジ。割り付けたポイントにトラを据えてガンガン振っていってください。ここからスピード重視です。新人にトラを覚えさせるのはここからがいいでしょう。割り付けもして、その相手のポイントも作っているので、間違いがないからです。

・しかし、この辺から大工、鉄筋、鳶などの職人が上がってきて、やりずらくなる時間帯に突入します。ここからはスピードが重要なので、現場状況を見て判断してください。

 

⑪ スケールで壁芯や、階段付近、手すり上など細かい親墨を出していく。

・バルコニー、手すり、階段など細かいところを仕上げていきます。スケールで距離を返すだけの所は素早く出していってください。

・仕上げで使いそうな壁芯の返りなども出していきます。

・90度確認ができない作業なので、よく図面をみて、確認しながら出す事!しっかりと声出し確認しながら作業すること。

 

⑫ 能書きを書いて、もれや間違いがないかチェックする。

・能書きを書く。綺麗にね。上手く書けない人は練習してください。能書きがキレイだと墨もきれいに見えます。墨出し屋は墨が商品なのでキレイに仕上げてください。

・スパン、平行、直角を最終確認してください。ここまでの作業でおおむね間違っていないのは分かっていますが、ウイークポイントを見つけてチェック。

 

お疲れ様でした!!!

 

チェックポイント

□ 下げ振りの糸はサポートなどの障害物にふれていなかったか?

□ 一本目の長手は型枠と平行になっているか。大きくちがっていないか?

□ 両端のかねてはどうか?型枠と平行になっているか?

□ 全長は合っていたか?スチールテープで測った時、きつすぎたり、ゆるすぎたりしていなかったか?

□ スパンチェックしたか?スケールで当たってみたか?

□ 90度確認していない墨のチェックはしたか?していない場合は今から確認!

□ 基準レベルは出したか?

□ 出し忘れがなかったか?手すり、階段室は出したか?壁芯の返り墨は出したか?


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