墨出し屋さんは絶滅危惧種⁈ (墨出しマニュアルはなぜ生まれないのか)
墨出しには、なぜマニュアルがが存在しないのか
墨出しにマニュアルが存在しない理由 3点
① 就業者が少ない
② 比較的新しい業種であること
③ 業務内容がめちゃくちゃ多い!!
皆様、日々の業務お疲れ様です。
まず、前回のおさらいから。
前回は、建設業にまつわる問題点をあげました。
最大かつ最悪な問題が
「人工商売」
でした。
つまりは「ピンハネ」
ピンハネは多くの建設会社のビジネスモデルです。
ピンハネをすることにより、会社は利益を上げています。
それは、優秀な人材の人件費の高騰をきらい、出来ない社員(つまり給料が少ない社員)を多く雇うことにより完成します。
優秀な社員は、出来ない社員に囲まれてヒーヒー言っています。
やがて、疲れ、不満がたまり、爆発します。
転職したり、廃業したり・・・。
そんな姿を見ている若者達は、そんな業界に入ってきません。
3Kやピンハネのイメージも相まって建設業に若い人達は近寄ってきません。
そして、高齢者が今、現場を支えています。
そんな彼らも、いつまでも働ける訳ではないのです。
彼らが引退するとき、建設業はいったいどうなってしまうのでしょうか?
墨出し屋さん独特な問題点
前回あげた問題点は、当然墨出し業者にも当てはまっています。
それに加え、墨出し業に独自の問題がいくつかあり、若手育成を妨げています。
次の3点があげる事ができます。順に見ていきます。
① 就業者数が少ない。
実際、統計を取ったことはありません。ただ、建築業ではメインの業種ではないので、おそらく当たっていると思います。
墨出しは1現場2人が通常ですので、1現場に10~20人もいる大工さん、鉄筋屋さんと比べても、人数が少ないのは明白です。
仕事に就く人達のが基本少ないのですから、苦労してマニュアル本を作った所で売れません。
ちなみに、ずいぶん昔に2冊だけ出版されています。
私も新人のころ、購入して読みました。
・とっても、昔の本
・わかりずらい
この2点から今から買うことはお勧めしません。
② 比較的新しい業種であること
墨出しの歴史を少し話します。
墨出しという作業は、かなり古くからあります。
どっかの古いお寺の屋根から左官仕上げの為に引いた墨が見つかったり、
西洋の大聖堂の屋根裏から「これはおらが作ったんだぞ」と言わんばかりに墨ツボが置いてあったりしたそうです。
ただ墨出しを専門でやるという会社は有りませんでした。現代日本でも、墨出しは監督さんと大工さん、もしくは左官屋さんが協力して行うものでした。
専門の墨出し業者が出現したのは、おそらく50年くらい前から。しかも長い間、関東だけでした。関西やその他の地域では、変わらずに
監督さん、大工さん、左官屋さんなどが墨を出していました。
しかし、監督さんの管理業務の増加に伴い、とても墨出しには手が回らなくなっていきます。
そんな背景もあって、急速に墨出し専門の業者が増えていきました。
新しい業種なんです。新規業者が乱立状態なので、まとまっていません。
統一したものがないのです。
③ 業務内容がめちゃくちゃ多い
まさに「ゆりかごから墓場まで」です。
建設開始から竣工の検査まで、ずっと現場にいる感じです。
その間に発生する業務にほとんど関わっている感じです。
特に大きい現場だと、それが顕著です。
- 地縄、通り芯だし
- 杭工事、山留工事
- 捨てコン上での墨出し
- 耐圧
- 躯体工事
- サッシ取り付け用の墨出し
- 部屋などを区切る間仕切り墨出し
- 外部のタイル工事用の墨出し
- 屋上の機械基礎や伸縮目地などの位置だし
- 外構工事
ざっと思いつくだけでこれだけあります。
大変多岐にわたっております。広く浅く、場合によっては深い知識も必要になってきます。
しかも、毎日同じ作業をするわけではないのです。次の日は違う現場で違う作業。
次の日も次の日も、違う現場、違う作業です。
これは、なかなか覚えられません。
業務時間だけで全部覚えようとしたら何十年もかかります。
このご時世、帰宅後も勉強しろなんて言ったらブラック企業認定間違いなしです。
現在、現場で活躍されている職長さんは、ほどんどが長い期間をかけてさまざまな現場で技術、知識を蓄積し、その経験で業務をこなしています。
言い換えると、「感覚」でこなしています。
はっきりと言語化している訳ではありません。
私も新人の頃、よく質問したのですが、しっかりと論理的に、体系立てて教えてくださる職人さんは、非常にまれです。
だいたい
「盗め」「背中を見て覚えろ」「そのうち覚える」
といった答えばかりでした。
実は、技や知識を「盗む」のは高度なテクニックです。
右も左もわからない人はなにを「盗む」のかもわかりません。
まず、普遍的な基礎、知識をきっちりと身に付ける必要があります。
ただ、猿真似してもだめです。それではただ動きをまねるだけになります。
少し問題が起こったり、未知の作業が入ってくると全く対応できなくなります。
工事全体の流れから、今ここでは、何の墨が求められているのか。
その墨を出すには、どの機械を使うのが最適なのか、この先の作業に併用できる
墨が出せないか。そして、最も間違いが起こりにくいやり方はなんなのか。
まねているだけでは、瞬時にこのような判断は下せるようにはなりません。
まとめ
今回はなぜ墨出しには、マニュアルが作られないのか考えました。
①就業者が少ないから
②比較的新しいから
専門の墨出しという業種は歴史が浅く、新しい企業が乱立している状態です。
まるで戦国時代のようです。
各社とも「オレのやり方が一番だ」「オレの会社が一番できる!」
と競い合って、統一の手順なんてものは当分できません。
③業務内容が非常に多い
若手育成が難しい点はまさにこれが一番の原因ですね。
まさに「ゆりかごから墓場まで」状態。
「墨出し屋さんはなんでも知っている」と現場では勘違いされるほどです。
多岐多用にわたる業務内容を体系的にまとめるのは非常に難しいのです。
この①、②、③、により「マニュアル」は作られてきませんでした。
しかし、このままでいいわけではありません。
私も、独立し、教育する立場となって痛感しました。
なんとなく教えても、人はなんとなくしか覚えてくれません。
この子能力が高いなと思う新人が現れても伸ばしきれませんでした。
大変もったいない事をしています。
入社から2年間位までは、吸収力が非常に高い。まるで乾いたスポンジです。
この時期に徹底的に基礎を叩きこめば、あとは場数だけ。やがて良い職人に仕上がります。そのためにも、わかりやすいマニュアルはあるべきなのです。
次回からやっと実践編に入ります。
とは言っても作業の内容はもう少し後。
どうやったら、一流の技術者になれるのか。
なにをどう修行したらよいのか。
その全体の流れを考えていきます。
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