墨出しに向く人、向かない人
なぜ建築の墨出し屋はあまりいないのか?
今日は「なぜ建築の墨出し屋はあまりいないのか」という質問にお答えします。
確かに、墨出し屋さんを現場で見かけることはあまりありませんね。大工さんや鉄筋屋さんみたいにずっとその場にいるわけではないため、スポット的にしか現れないことも多いです。
単純に、全体の数が少ないという理由があります。
墨出し屋の歴史は浅い。墨出しの技術自体は2千年以上前からありますけど。
墨出しの専門職となったのは50年くらい前のこと。それまでは、型枠大工や監督が出していたんです。でも、ぶっちゃけると墨出しって面倒くさい。立ったりしゃがんだりig意外に疲れるし。
細かい作業が多いから、じいさんではできないし。そんな中で専門でやる人達が現れたのです。
「本当に墨出しだけで食ってるの!」って当時は驚かれたらしい。いまじゃ当たり前の存在になっているけどね。
要するにまだ歴史が浅いから、人数が少ないのはあるよね。
でも、わたし、はこれが最大の理由だと思うのだが、それは「仕事を覚えられない」というものだ。
墨出しの仕事は毎日違う現場に行くもの。よっぽど大きい現場でないと、ずっと同じ現場にいることは少ない。毎日違う現場に行くから、当然、作業内容も毎日違う。
これ、新人はなかなか覚えられないよね。
毎日同じことをすることで徐々に仕事って覚えるじゃないですか。でも墨出しは毎日違うことやっているから、同じ作業をもう一回やるころには、忘れてしまうんです。
地縄っていう、現場が始まる前の墨出しがあるのだけれど、これなんか1現場に一回しかないレアな作業なです。。へたすると1年に一回しかないなんてこともある。これじゃ覚えない。ベテランの人でも地縄はできないなんて人も結構いる。
そんでできないと「この間やっただろー」なんて先輩におこられたりする。
しかも墨出しは初めから最後までかかわるから覚える知識も幅広い。
嫌になっちゃう気持ちもまあわかるね。
では、今回のテーマである墨出しに向いている人、向いていない人を考えていこう。
墨出し屋の一日を見ることが結構ヒントになります。
墨出し屋の一日
親墨がある日の1日です。
朝はとにかくはやい。6時から作業開始するから遅くとも4時半には起床しないといけない。
夏でも真っ暗。そんで移動して始めるわけだが、朝からハードな仕事だ。一番気を遣う仕事だからね。親墨は。
9時ごろには出し終わるんだが、結構ぐったりしている。時間は2~4時間だが、追われている作業だから、もちろん休憩はないし、打ち立てのコンクリートは熱をもっていて、夏場なんかはかなり蒸し暑い。体力勝負の面もある。
親墨が終わると次の現場に行くことが多い。現場を移動しないと墨出し屋は利益が出しずらいんだ。最高で1日4現場いったこともありますよ。
次の現場に到着して、作業開始。内装の仕事をしたりする。
お昼に1時間休憩。朝4時起きだから、昼寝する。寝ておかないと帰りの車の運転がこわい。
16時ごろまでやって終了。朝が早い分少し早めに上がる。残業は滅多にないかな。
この時間になると帰りは渋滞に巻き込まれる。19時から20時ごろやっと家に帰れる。
これを週6日やる。建設業は週休2日なんて夢物語だから、私達はなんとも思わないが、若い人にとってはクソだよね。まあ、これは墨出しの問題ではなく、建設業全体の問題だが・・・。
まあ、とにかく朝は早いです。早出も多いので、6時から始まる場合は4時か4時半には起床しなければなりません。通常8時集合でも、車で移動する朝の渋滞がひどいので、早めに家を出て遅刻しないようにする職人が多いです。
遅くとも6時には出発する感じです。朝が弱い人には厳しいですよね。
一番の特徴としては、毎日違う現場で働くことが挙げられます。1日の中でも移動して、別の現場に行くことが多く、1日中の作業内容も異なります。刺激的で飽きないのが良いところですが、仕事を覚えるまでの時間が長めです。
わたしの20年近くの墨出し経験の中で、向いている人を以下のように考えています。
- 飽きっぽい人
- 自己満足できる人
- 独立したい人
あなたはどれかに当てはまりますか?どれか一つでも当てはまると、続けていくことができるかもしれません。ひとつずつ説明していきます。
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飽きっぽい人
私自身、これに当てはまります。一つの場所で同じ仕事をすることが苦手でした。
墨出しは20年も続いているのですが、同じことの繰り返しではないことが、飽きっぽい私の性格に合っていたのだと思います。
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自己満足できる人
この性格を持っている人が実は一番墨出しには向いています。
自己満足できる人とは、自分自身でやりたいことが明確で、そのことに没頭する人を指します。
墨出しの仕事は大工さんなどとは違って、完成した建物には何も残りません。成果物が目に見えず残らないため、完成した喜びはあまりありません。
そのため、自分自身で仕事に対する喜びを見つけた人が強いのだと思います。
誤差がないことを喜ぶ人、美しい墨を見てうっとりする人、習字の先生のような文字を書く人など、自分自身にこだわりを持っている人が大きな喜びを見つけられます。
このようにこだわりを持っており、そのこだわりを満たすことが大きな喜びになっている人こそが、墨出しの仕事にぴったりだと思います。まるでオタクのようなものですね。
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最後に独立したい人
墨出し屋は独立しやすい職種です。
身体だけで稼げる仕事なので、創業時に必要なものは、レベル、トランジット、レーザー墨出し器など、ごくわずかです。他の業種と比較しても、かなり安い設備投資で独立できます。
車は必要ですが、大きな荷物はないので、安い軽自動車で十分です。
車を除けば、50万円あれば十分です。
機械もレンタルにすれば、ほぼ資金は必要ありません。
雇われたくない、最短で独立したいと思っている人にはぴったりの仕事です。
その後、儲かるかどうかは、その人次第ですがね。
今度は逆に向いていない人、向いていない性格について話しましょう。
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一番向いていない人は、過去をいつまでも引きずるタイプの人です。
墨出しは失敗が許されない仕事ですが、人間だからミスを犯すこともあります。墨出しにはミスがつきものです。
図面の読み間違いや、スケールの出し間違い、聞き間違い、言い間違いなどがあります。
現場は暑い、寒い、うるさいなど、集中力の持続が難しい環境にあるため、100点を取り続けるのは結構至難の業です。経験を積み重ねるうちに、急所がわかってきて、間違いが少なくなります。しかし、経験を積む前に、落ち込みすぎると危険です。
墨を出すことが恐怖になって、積極性が失われ、やがて離職することにつながります。ミスしたら、とにかく謝って、素早く対応することです。そしてその晩はゆっくり寝て、次の日には新たな気持ちで現場に向かいましょう。そうでないと、この仕事はやってられません。墨出しに向いている人は、失敗を受け止め、次に活かすことができる人だと思います。
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次に妥協してしまう人です。
誤差は積み重なると大きくなります。1ミリぐらいいいやで妥協していると、あとで取り返しがつかない事態に陥ります。
あとは確認作業を怠る、妥協すると大変な事態になります。
こんな話があります。
捨コンの墨出しで最後の確認を必ずするのですが、確認途中で雨が降ってきました。だんだん強くなってきて、作業着も濡れてきています。図面もふにゃふにゃになってしまいました。
確認作業を急ぐが、ここまで順調で一つも間違いがなかったです。あと一つの柱の確認で終わりというところで、確認をやめてしまいました。ここまで間違ってなかったのだから、大丈夫だろうと、確認作業をそこで中断して、あがってしまったのです。しかし、最後の一つが間違っていたのです。
鉄筋が組まれてから、その間違いに気づき、結局はばらすことになりました。
雨で早く帰りたかったのでしょうが、あと一つ確認すれば、間違いに気づくことができたでしょう。妥協すると、結果は良くないということを忘れずに。これが真実です。
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ルーティンワークが好きな人
墨出しの仕事は、毎日違う現場に行くことが多く、その1日の中でも作業内容も異なってきます。刺激的で飽きないのが良いところです。だから、ルーティンワークが好きな人は、墨出しの仕事に向いていないかもしれません。ひとつのところでじっくり仕事をしたい人もいます。割とサラリーマンタイプの人です。そういう人には、苦痛かもしれません。
あなたはどっちでしたか?
もし向いているなら、いずれ独立を目指すことになるでしょう。
そこで先に独立した先輩として、墨出しで独立するメリット、デメリットを最後に簡単にお話します。
メリット
ずばり、ライバルが少ないことです。
先ほども話したとおり、専業の墨出し屋は歴史が浅いんです。まだまだ足りないです。実際、今は墨出し屋の囲い込みを大手ゼネコンがやっています。
同業者への応援もやるなら、仕事に困ることはまずないでしょう。
デメリット
取引先が一社に依存していると危ないです。
墨出し屋は常駐する仕事ではないので、取引先は何社もあったほうがいいです。数多く取引先を持っておかないと、暇になることがあります。そうなると、売上が上がらないし、社員が他に行ってしまう可能性があります。常に新規獲得が必要なことがデメリットです。営業に苦手意識を持っていると厳しいですが、わたしも営業苦手なんですが、1年で30社の新規取引先を獲得したことがあります。
それはまた別の機会に紹介しましょう。